価値抽出を具体例で学びたい人のための『なぜ「つい買ってしまう」のか? ~「人を動かす隠れた心理」の見つけ方~』

本格的なUXデザイン、UXリサーチを勉強し始めたばかりのWebデザイナーが『インサイト』『価値抽出』についてもう少し掘り下げたくて光文社新書『なぜ「つい買ってしまう」のか? ~「人を動かす隠れた心理」の見つけ方~』を読みました。各章のまとめと個人的に気になったトピックスをまとめます。

本記事は『あさぎデザインひとりAdvent Calendar 2019』の2日目のエントリーです。

なぜ手に取ってみようと思ったのか

購読しているWebマーケター向けメールマガジン『運営堂メルマガ(毎日堂)』で著者・松本さんのデータサイエンスについてのnoteが紹介され、その記事が面白かったので著書を購入してみました。

帯の真っ赤な「インサイト」の文字に惹かれたというのも大きかったです。最近UXリサーチの初級講座を受講し、「インサイト」「価値抽出」についてをもっと掘り下げたいなと思っていました。(UXリサーチの一連の流れのなかで比較的Web制作、Webサービス開発に取り入れやすいのでは?と思ったこともあり)

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各章のまとめと感想

教科書的な概念よりは、身近なお店やサービスをサンプルにした実践的な内容でした。手法の紹介も多いので、気になったところを引用します。

第1章 「充たされた時代」を打破する

この「お題」をデコムでは「オポチュニティ」と呼んでいます。消費者が潜在的に感じている価値や、ブランドやサービスでこれまで提供していなかった価値の仮説という意味合いがあります。

引用元:第1章 「充たされた時代」を打破する

「疲れた時はステーキ屋で大きな肉を食べる」という体験をユーザーから聞き出せたのは、「疲れた自分にエネルギーを注入する人たちはいませんか?」というお題があったから、という前段から続いてこの本で重要な概念「オポチュニティ」が登場します。

良いオポチュニティ → 良い価値事象 → 良いインサイト → 良いアイデアが成功するリサーチの流れとして第1〜4章を通して述べられています。

「新奇事象」と命名されている「たった一人しかやっていないような行動に目を向けた時の気付き」の集め方、直接の競合他社ではない他業種・他セグメントからヒントを得た例が特に面白かったです。今までぼんやり眺めるだけだった異業種の見本市・展示会の見方・活用法のヒントになりました。

第2章 「オポチュニティ」を探し出す

気合いではどうにもならない。良い手法も思い浮かばない。それがアイデアを巡る不毛な環境です。こうした状況を打破するためには、まずは何をすればいいのでしょう。順を追って説明します。
1. 「人間」を見に行く – 市場や競合は「既存顧客」に定義される
2. 既存価値年表 – この範囲内は面白くないと定義する
3. 新奇事象 – 面白い行動に隠された価値に気付く
4. オポチュニティ – 「新しい価値」を大量生産するフレームワーク

引用元:第2章 「オポチュニティ」を探し出す

この章で紹介されている人間を見に行くための視点「生活14カテゴリ」、人間のポジティブ/ネガティブなインサイトの一覧「欲望マンダラ」は視覚的にわかりやすく、日々のリサーチに取り入れやすそうなのでおすすめです。(さすがに内容のコアすぎるので引用はためらわれました…)

クリエイターには馴染みのある「アイデア出しのための街ブラ」の効能の有る無しについての掘り下げが面白かったです。「人間には思考バイアスがかかっているんだから、街を歩いて観察した内容から画期的なアイデアを生み出せるのは天才くらいのもの」という身もふたもない結論ですが…。散歩にはリフレッシュ以上の効果を期待しないようにします。

この話については著者の松本さんがnoteに書いてらっしゃいました。
街ブラしても良いアイデアが浮かばないのは、普段からバイアスに塗れているからだ|松本健太郎|note

「人間を見る」こととは、深い人間への愛がなければ辛い作業かもしれません。

引用元:第2章 「オポチュニティ」を探し出す

ここで少しぎくりとしました。マーケティングを勉強する以上、消費行動の理由は当然ポジティブなものばかりではないので、他人のネガティブな欲望(デビルインサイトと表現されています)や内に秘めたルサンチマンに向き合う覚悟を決めないといけないのかもしれません。

第3章 「インサイト」を探し当てる

インサイトとは「人を動かす隠れた心理」と定義されています。個人的には「本人にもわかっていない買い物・消費行動の理由」だと解釈しています。

成熟した商品・サービスを選ぶ意思決定は非合理的で、自分以外の相手に説明しても伝わらないものです。

引用元:第3章 「インサイト」を探し当てる

数百円のコンビニスイーツからちょっとお高めの掃除機、一生に一度クラスの買い物である住宅まで、色々調べたりしても最後は「ご縁」などのふんわりしたフィーリングで選びがちだというのは納得でした。

この「なんとなく」を深掘り・言語化するためのエスノグラフィーをバラエティー番組をサンプルに紹介するのは面白かったです。たしかに「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」はエスノグラフィーっぽい。

第4章 「アイデア」を生み出す

ここまでの章では店舗や商品がサンプルに上がることが多かったのですが、ここでWebサービスの開発についても言及されます。「リーンスタートアップ」への指摘、私たちWeb屋がついつい開発スピードを重視しすぎることの負の側面への指摘もあるので、ここは特に当事者として読めました。

3章までの調査をもとにアイデアを絞り出した時のクライアントの偉い人からの想定問答集は思わずマーカーを引きました。デザイン提案でもわりと近いことを聞かれることがあるので…。

  • 根拠はあるのか?
  • 評価されているのか?
  • 本当に大丈夫なのか?
  • 間違いないのか?

全体の感想

著者が所属するインサイトリサーチカンパニーで実践されている方法が紹介されているので「概念はなんとなく勉強できたけど、実際に使うとどうなるの?」という疑問を持っている人(このブログの筆者に近いセグメントですね)におすすめしたいです。語彙の定義をしっかり本文中で行なっていて話題もキャッチーなものが多いので、マーケティング初心者でも無理なく読めました。

マーケティングリサーチをばりばりやっている人の場合は、「他社がどうインサイトリサーチを実践しているのか」という目線なら参考になりそうです。文末には紹介されたフレームワークのダウンロードURLも載っています。

マーケティングを新書で勉強するメリット

マーケティングを学ぼうと思ったらとりあえずコレを読め!と言われるような名著はたくさんあります。何十年も前に書かれた本がいまだに色褪せないのは、Web制作関連の書籍だとなかなかないことなので本当にすごい。

しかし発行されたばかりの新書(このブログを書くほぼ1ヶ月前の2019年10月30日発行)の強みは「リアルタイムの世の中の流れを汲めること」だと思いました。『串カツ田中』『龍が如く』などのずいぶんメジャーになったトピックスから、『しいたけ占い』『檸檬堂』『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』など比較的新しいトレンドにまで触れているので、どこかの遠い業界のできごとではなく「自分の生活に密着していること」として捉えられるのは初学者としてありがたかったです。