Designship 2018 1日目参加レポート

グラフィック、プロダクト、Webなどの分野を越えたデザインカンファレンス「Designship 2018」のレポートです。セミナーではなくカンファレンスということで、具体的なノウハウやコツではなく、思想・ものの考え方に踏み込んだお話がメインでした。
Designship 2018 2日目参加レポート

もくじ

「核拡デザイン」を探求し続けて

スピーカー:中西 元男氏 http://www.paos.net/

ブランドデザインの軌跡

PAOSさんの手がけたブランドデザイン、ブランド戦略の紹介を軸に、日本のデザインの歴史を振り返るセッションでした。
当たり前のことですが、CI(コーポレートアイデンティティー)の刷新をデザイナーに依頼するとしても、その動機やきっかけは「今絶好調だからもっと伸ばしたい!」「下請け体質から脱却したい!」「全社的に業績不振なので、せめてこの店舗だけでも救いたい!」とさまざま。日本経済が上り調子だった時代とともに紹介される実績に少し切なくなったりもしたのですが、2010年代に入ってからの「デザイン・シンキング」に繋がっていくのは圧巻でした。
誰でも知っているキリンビールやdocomo、ベネッセなどのロゴの制作風景、プロセス、思想が紹介された時はテンションが上がりました。

あらゆるものが「情報」として伝わってこそ価値を認められる時代

「経営にデザインを取り入れる」とは?というタイトルで、CIデザイン、ブランド戦略の考え方をご紹介いただきました。
経営資源を「体力(人、モノ)」「知力(想像力・洞察力・開発力)」「魅力(表現力・演出力・伝達力)」に分解するのは、「ブランド」という言葉をふんわりしたままにせずに噛み砕くために役立ちそうです。

現代の一流企業とは何か考える

デザインシンキングのお話からそもそも「良い会社ってどういうもの?」というビジネスと社会の話題に。ついついデザインやWeb関連の情報収集に偏ってしまいがちですが、AI(人工知能)などの最近のトピックスをしっかりつかまえておくのはやはり大切だと感じました。

「グラフィックだとかデザインのジャンルにはこだわらない」という言葉通り、見映えではなく経営や戦略のお話が軸でした。「優れたデザインは思想の凝縮」というキーワードで、デザインシンキングが注目を浴びた理由に言及されました。デザイン思考人材の育て方が作家性からマーケティング、企業戦略に移り変わっていく過程のご紹介もあり、

中西元男公式ブログ | 中西元男 実験人生
http://www.designist.net/blog/

トイレの美しさに向き合い続けて考えたこと

スピーカー:大塚 航生 氏 https://jp.toto.com/

プロダクトデザイナーの目線で「バスルーム文化」から始まり、「便器」と「ウォシュレット」が作られる工程を例にお仕事の思想を。全編を通して「プロダクトのすべてを理解することで、美しさや快適性をデザインできる」というお話でした。

クラフトに近いプロダクト独自の作り方

便器は陶器なので焼けば縮み、理想通りのかたちになるのは難しい「クラフトに近いプロダクト」とのこと。デザイナーが提案した形がそのまま実現するのは難しいジャンルですが、開発部門のスタッフさんとの信頼関係を構築して実現にこぎつけたケースのお話がありました。(このあたりはWebデザイナーとWebエンジニアの関係にも通じるなーと思いながら聴いていました)

設計的な視点とバランス感覚

「折衷案」というとデザイナーとしてはネガティブなイメージのある言葉ですが、「最強の折衷案」というキーワードがポジティブな意味で提示されました。前述の通り便器はクラフトに近いプロダクトので、デザイナーにも開発者と同じくらいの目線に立てるくらいの知識・理解が必要で、落としどころ。

プロダクトを作る上で感じる「確からしさ」を大切にしてほしい、というまとめでした。

魅力を伝えるストーリーのつくりかた・つたえかた

スピーカー:きよえ 氏 https://mamari.jp/

新米ママのためのQ&Aサイト「mamari」を作り手目線で「10年続くブランドにする」というコンセプトでお話いただきました。

作って終わりじゃないリブランディング

「リブランディングは作った後が大切です」とのこと。
そもそも永く続くブランドになるにはどうすればいいかというと、良いサービスを提供し続けることですが、(スタートアップは特に)デザイナーをはじめとしたスタッフの入れ替わりが激しいです。mamariの「思想を伝言ゲームにならないように」伝えるための工夫をご紹介いただきました。

そもそも、ブランドを受け継ぐとは?

「ブランドを受け継いでいる良い例」として提示されたのは、老舗のお寿司屋さん。ただ、Webサービスとの違いとしては「伝統の守る覚悟」。
事業をどう売り出すかが重要で成長に重きをおくスタートアップ企業と、伝統を守ることが生存戦略とクオリティ維持につながる老舗企業との違いを整理しながら、参考にできる部分を抽出するプロセスが紹介されました。
「目指しているものの良い例」を他分野から探して、その例と自分たちの立場がどう違うか、何なら取り入れられるのかを洗い出すのはどんなプロダクトや会社のブランドでも参考になりそうです。

作り手の覚悟を語り継ぐために、実際に取り組んでいること

  1. 作り手(職種を問わないスタッフ)同士が話す場作り
  2. 目標とブランドをひもづける仕組み
  3. 作り手がテーマを決めて巻き込みながら共創できる仕組み

3つの方法(どれもコミュニケーション重視)で実際にどうやって考え方を共有・継承していくのか紹介されました。

IoT時代における新しい音声体験のデザイン

スピーカー:京谷 実穂 氏 https://voicy.jp/

音声配信サービス(声のブログ)「Voicy」の強みと音声メディアの強みのお話でした。

ライフスタイルメディアとしての「音声」

今では誰もが持っているスマートフォンの弱点は「画面を見つめないといけないこと」ですが、音声はハンズフリー・視線フリーで使えます。(この辺りはスマートスピーカーの普及で実感できるようになりました)
「手の操作を必要としない、画面に集中しない、小さな子からお年寄りまで使える」という音声プラットフォームの強みが紹介されていました。

スマートフォンの普及黎明期を例に「音声でどれだけ面白いことができるか」を提示されました。スマホがキラーコンテンツの登場(UX革命)を経て使いやすくなったように、スマートスピーカーなどの音声入力が普及するのではないか、とのこと。

GUIでは多彩な選択肢を整理するのが重要ですが、音声の場合は

感情の動きを変える音声プラットフォーム

Twitterでは炎上しがちなVoicyパーソナリティの方が「Voicyを聴いて〇〇さんが好きになりました!」という好意的なリアクションが増えたそうです。文章のように「斜め読み」のようなことができないので、最終的にファンが残るとのこと。
Webメディアや広告記事はスキップしがち・されがちですが、音声はかなりの割合で最後まで聴いてもらえるというデータを見せていただきました。(後日シェアされるといいな!)

SENSORY EXPERIENCE DESIGN 感覚を鍛え、感性を磨く-デジタル時代の生涯教育

スピーカー:阿部 雅世 氏 https://www.masayoavecreation.org/

ヨーロッパを主な舞台に、アカデミックな分野でのデザインに取り組みをご紹介いただきました。個人的には「ムナーリのことば」の訳者さんとしてのイメージが強いです。

スタイリスト養成だけでなく、生活の「質」を見抜けるようになる

デザインをデザイナーだけのものにしないための取り組みとして、良いものを見抜くためのデザイン教育開発プログラムの実績をご紹介いただきました。ヨーロッパやシンガポールで開催された子供向けプログラムの写真を見ながら、直接デザインに関わらないように見えて「目が肥えている」というのはデザイナーとしてだけでなく、生活者としての教養として強みになると感じました。

「2時間の体験をするだけで、ものの見方をプロフェッショナルになる」とのこと。歯ブラシひとつでも良し悪し、材料、触り心地などが気になるようになるそうで、子供のうちにそんな体験ができるのはうらやましかったです。

大人が子供のような感性を持つためのプログラムも

シンガポールの幼稚園向けカリキュラムを作るお仕事で、保育士の先生が「子供の感覚でものをみる」ためのレクチャーの様子をご紹介いただきました。ただ単に童心に返る、というにはロジカルな印象を受けました。

付加価値を産むのが「感覚的な体験」

製品のデザインに付加価値をつけるために「感覚的な体験」を重視されるようになり、「嗅覚」「聴覚」「触覚」が注目されているとのこと。しかし阿部さんは「一番危機感を感じているのは視覚」だそうです。
現代人の「見る」という行為はスマートフォンやパソコンのディスプレイに収まってしまいがちなので、意識的に視野を広げる、色々なものに焦点を当てる取り組みは取り入れたいです。(自然の中にアルファベットを見つけるワークショップ、大の大人が野原で真剣にABC型の木や草を探すのはなかなかインパクトがありました)

クリエイティブを競争力に デザイナーを10倍輝かせる組織作り

スピーカー:佐藤 洋介 氏 https://www.cyberagent.co.jp/

クリエイティブを会社の競争力にしたい、デザイナーのやる気を引き出したい方向けのセッションとして、サイバーエージェント社(クリエイティブ関連スタッフが700人近くいるそうです…多い…)の取り組みをご紹介いただきました。

デザイン×経営は信頼の築き方が9割

デザインと経営の良い関係を築き方として、以下の3つのプロセスと施策を挙げられました。

  1. 環境(競争して、承認欲求を満たせる機会を用意する)
  2. 浸透(クオリティ、美意識をオフィシャルグッズで共有する)
  3. 理解(意図を伝えてスムーズな指摘をし、デザイナー側は読み取る努力をする)

サイバーエージェントさんくらいの大きな組織になると、関わっている事業の業績によって個人の評価が変わるのかなーと思っていたのですが、きっちり個人個人の技術評価をしているとのことでした。評価基準の理不尽な部分が減るなら、モチベーションの維持がしやすそうです。

ビッグデータから導き出されるビジュアルトレンド

スピーカー:宮本 哲也 氏 http://welcome-to-gettyimages.jp/

デザイナーとしては足を向けて寝られないストックフォトサービスの運営になぜ「データ解析」が必要なのかを中心にお話しいただきました。

どうやってトレンドを予測しているのか

どういうキーワードが検索されているか、どういうビジュアルコミュニケーションが主流なのかを読み取っているそうです。

オウンドメディアやTwitterなど、コミュニケーションにビジュアルが絡むことが増えました。そこで大切にされているのが、嘘くさくなさ(=Authenticity)だそうです。たしかに「いかにもストックフォト!」という写真は避けがちです。

Authenticityに反発するアーティスティックな写真も増えた

ストックフォトに登録するフォトグラファーさん発のトレンドもあるそうです。
「嘘くさくなさ」を突き詰めると「素人っぽさ」「プロアマの境が曖昧になる」という面もあります。そこで、プロのフォトグラファーさんたちが「プロらしさ」「アーティスト性」を押し出した凝った写真の投稿も増えてきたそうです。

あとは「食べ物の写真は明るく暖かく」という定番の表現に反したダークフードフォトグラフィー(Instagramの例)ブームもご紹介されました。

トレンドとしてのダイバーシティー

LGBTQ関連の写真が2017年以降よくダウンロードされているそうです。また、さまざまな人種の人がひとつの食卓を囲んだり、同じオフィスで働いたりする写真の需要も伸びているそうです。

ライブにイノベーションを起こすUXデザイン

スピーカー:柘植 秀幸 氏 https://jp.yamaha.com/

ミュージシャンのライブやお芝居、イベント中継でお馴染みになったライブビューイングですが、臨場感が足りなかったりと弱点もあります。今回はプロダクトデザイナーの立場から「ライブの真空パック」を実現するための技術の紹介でした。

音楽の無形文化遺産にしたい

チケットの売り切れ以外にも、ライブに参加できない・ライブが開催できない理由は色々あります。(解散してしまったりメンバーが亡くなってしまったり)
柘植さんのライブの原体験のお話も伺い、自分の体験が根っこにある強さを感じました。

ライブの真空パックを技術で実現する

実演していただいたバーチャルなライブは、録音よりずっと臨場感がありました。
ライブではさまざまな楽器が使われますが、多彩な楽器を作っていて、音響技術も持っているヤマハさんだからこそできることだそうです。

越境するデザイン

スピーカー:田川 欣哉 氏 https://ja.takram.com/

デザイナーとエンジニアのどちらかを選べなかった体験をきっかけに、デザインエンジニアリングに取り組むようになったこと、実績の紹介のお話でした。デザイン、エンジニアリング、ビジネスを「越境する」取り組みでした。

こちらのセッションのスライドとスクリプトはすでに公開されています。

デザイン駆動型イノベーションを実現するには

Takram社では、デザインを考えるときに「BTC TRIANGLE(Business Design / Design Engineering / Classical Design)」モデルで考えるそうです。比較的歴史が長い「クラシカル・デザイン」であるプロダクトデザインから最新のデジタルテクノロジーまで、さまざまな目線が重視されています。

スタッフの皆さんが約3ヶ月スパンで多彩なプロジェクトをやっているのは、デザインとイノベーションを結びつけるために一人一人の中に色々な目を持って欲しいという意図だそうです。イノベーションを生み出すために、ある時はデザイナー、ある時はマーケッター、またある時はエンジニアとして純粋に技術を考えられたら素敵だと思います。

クリアに定義されていないことをやってみる

”私たちはイノベーションの時代に生きている。このような時代にあって、実際的な教育が育てなければいけないのは「まだ存在していないような仕事・はっきりとは定義されていないような仕事」にこそ取り組むような人間なのだ” というピーター・ドラッカーが紹介されました。

Designship 1日目のまとめ

分野を越えたデザインカンファレンスということで、どう考えるか、どういう立ち位置を取るか、デザインそのものの歴史を振り返るお話が多かったです。
実績紹介からアカデミックな内容まで幅広いお話を聴けて、学生時代のデザイン概論の授業を思い出しました。個人的にはちょっとだけ内容が宣伝・採用に偏りがちかなーとも思いましたが、かなり突っ込んだ実績もご紹介いただけたので満足しています。

Designship運営様、ありがとうございました!
明日の2日目も引き続きレポートしていきます。
Designship 2018 2日目参加レポート