グラフィック、プロダクト、Webなどの分野を越えたデザインカンファレンス「Designship 2018」2日目のレポートです。
セミナーではなくカンファレンスということで、具体的なノウハウやコツではなく、思想・ものの考え方に踏み込んだお話がメインでした。
2日目はメモを取れなかったセッションも多いので、Designship公式Twitterアカウントが公開しているモーメントのリンクを貼っておきます。時系列で参加者さんの反応が見られるので、臨場感がありおすすめです。
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体験価値をより高めるこれからのプロダクトデザイン
スピーカー:横関 亮太 氏
横関 亮太 体験価値をより高めるこれからのプロダクトデザイン #Designship モーメント
ロンドン歴18年の日本人が学んだ欧米のデジタルデザイン
スピーカー:難波 謙太 氏
難波 謙太 ロンドン歴18年の日本人が学んだ欧米のデジタルデザイン #Designship2018 モーメント
変身歌舞伎の体験設計 ―「観る」から「体験する」へ。歌舞伎の魅力を世界に発信―
スピーカー:橋口 恭子 氏
橋口 恭子 変身歌舞伎の体験設計 ―「観る」から「体験する」へ。歌舞伎の魅力を世界に発信― #Designship2018 モーメント
プロジェクトが育つ共創空間のデザイン手法 「リアルスケール・プロトタイピング」のススメ
スピーカー:岩沢 卓 氏
岩沢 卓 プロジェクトが育つ共創空間のデザイン手法 「リアルスケール・プロトタイピング」のススメ #Designship2018 モーメント
エクスペリエンスデザイナーとしてチャレンジしてきた俺の屍を越えてゆけ
スピーカー:坪田 朋 氏 https://bcamp-inc.com/
noteで事前に内容が公開されていました。
https://blog.tsubotax.com/n/nf356e5761689
実績の紹介をメインに、フィーチャーフォン(ガラケー)からスマートフォンへの変遷期の思い、マネジメントかクリエイティブかのキャリアパス問題などに触れつつ、坪田さんのクリエイター人生をご紹介いただきました。
35歳の壁を越えるために越境する
Designship 1日目でもよく言及されましたが、デザインばっかりマネジメントばっかりではない「越境」をテーマにされていました。「デザインだけでなく、近い領域にもどんどんジャンプしてチャレンジしています」とのこと。
ユーザーから評価されるのが一番嬉しい
中国市場に特化した育児アプリ「Babily」を例に、開発のプロセス、ユーザーからポジティブな感想をもらった喜びのエピソードをご紹介いただきました。
平成の終わりに、デザイナーが医療に携わること
スピーカー: 畠山 糧与 氏 https://www.company.dr-ubie.com/
医師は患者と向き合う時間よりも「事務作業」が忙しい
「外来診療の時間を1時間増やすと、それに伴う電子カルテの打ち込みなどの事務作業が2時間増える」という例を挙げて、お医者さんの抱える課題が紹介されました。医療メディアのデマ記事問題が解決しても、なかなかネット上で安心できる医療情報は得られません。
症状に合わせて、AIがベストな問診票を作成する
医師の業務の効率化、患者サイドの困るごとを解決する取り組みとして「Ubie」が紹介されました。
なぜ医療のデザインが面白いのか
Ubieを作っているスタートアップは、フルタイムのデザイナーがいない時期から泥臭くユーザーと向き合ってきたとのこと。「一デザイナーとして、経営者がデザインに前のめりになってくれるのが嬉しかった」と畠山さん。
常勤スタッフに医師がいるため、密に連携してプロトタイプ作成やユーザーインタビューができるお話はサービス開発もしている身としては羨ましいです。
病気に苦しんでいる「デジタル強者」以外の人たちも幸せにできるかという試みに魅力を感じたとのことでした。
The Inner Power of Brands — ブランドの内なる力
スピーカー: Tomo Ogino 氏 http://tomoogino.com/
「ブランドとは”何”でしょう?」という問いかけで始まったコミュニケーションデザイナー・Oginoさんのセッションでは、ブランディングの定義、
ブランディングとは、揺るぎない価値観、本質的価値を創造するプロセス
インターン時代のブランドデザインの失敗談を例に、「あなたのブランドがこうあるべきです」という自分の目線に偏ってしまった振り返り、もっとクライアントに寄り添うべきだったのではないかという反省のお話がありました。
デザイナーは(私も含めて)ついついいきなりビジュアルデザインなどの「目に見える形」にしたくなってしまいますが、魅力を引き出すための「ワークショップ」のプロセスは大切です。
ブランドの魅力を引き出すワークショップ
企業のブランドワークショップの前に、「あなたのビジネスを象徴するものを持ってきてください」という宿題を出されるそうです。
「なぜこれを持ってきたんですか?」という質問をすると、どんどんブランドの魅力に当たる言葉が出てくるとのことでした。
「日本型サービスデザイン・プロジェクト」の成功の秘訣
スピーカー: 太田 文明 氏 https://www.imjp.co.jp/
日本で働く我々の「あるある」を取り上げながら、デザインの責任者のお立場からサービスデザイン・プロジェクトの成功の秘訣についてのお話でした。
個人的にとても気になったPerfume Experience Designのスライド。
日本のサービスデザインあるあるを避けるために「体より心を使う」
- 自分たちが「知らない」ことを探さないといけないのに、いきなり「知りたい」ことを探してしまう
- 「この人ならどう考える?」ではなく「自分ならこう考える!」になってします
先ほどのOginoさんのセッションでも言及されていましたが、このパターンに陥らないためには「クライアントさんに寄り添う」のが重要だとのこと。
- 実現できるか、を考えてしまう
- プロトタイプでUXを作り込み過ぎてしまう
- お金を払ってもらうモデルしか考えられない
技術もマネタイズもいつかは考えないといけないのですが、アイデアを出す段階で具体的な施策などに囚われるとアイデアが出てこなくなるそうです。
あとは「大して厄介でもない課題なのに、いきなりサービスデザインに走るのが一番良くない」という言葉にひやりとしました。ワークショップなどで手を動かすと、ふわっとしたままでも仕事をした気になりがちなので気をつけたいです。
まずは自分たちのサービスをデザインする
「お客さまのサービスをデザインする前に、自分たちのサービスをデザインするべきだ」と太田さん。クライアントさんの時間をいただいてやるものなので、ワークショップを楽しくしようという目線は大切だと思いました。
カタチから造り方まで、自動運転モビリティ・マイクロEVの原型をデザインする
スピーカー: 横井 康秀 氏 https://www.linkedin.com/in/yasuhide-yokoi
横井 康秀 カタチから造り方まで、自動運転モビリティ・マイクロEVの原型をデザインする #Designship2018 モーメント
「つくる」X「つたえる」がもたらす新たなデザイン
スピーカー: 堀田 峰布子 氏 http://www.dentsu.co.jp/
「つくる」から「つたえる」へ越境していくキャリア
電機メーカーのプロダクトデザイナーから企画職へのキャリアパスの紹介の中で、「作るだけでは限界がある」という印象的な言葉がありました。
作り手としてはいくらいいものを作れば使ってもらえる、買ってもらえる幻想を持ちがちですが、外資系メーカーへの転職エピソードで「伝えることを重視する」ことの大切さが語られました。
個人的には、世の中のトレンドの変遷と堀田さん個人のキャリアパスがリンクしているのが面白かったです。
なぜ日本企業は伝える力が弱いのか
日本企業のブランディング・広報の問題点として「ウォーターフォール型の分断された工程と組織の構造」「他の部署・分野に口を挟むことをよしとしない価値観」を上げられました。
デザインに集中できるのはそれはそれで幸せかと思いますが、ブランドやマーケティングを考えるならもどかしそうです。
ご紹介いただいた仮説と検証方法、結果(分断を解決する方法)のお話も興味深かったです。
フルスタックより強い、オールラウンドデザイナーのつくりかた
スピーカー: 佐々木 智也 氏 http://parkinc.jp/
「一流になれなくても、超二流にはなれる!」というパワーワードから始まったセッションでは、武器をたくさん持つことで、楽しく仕事ができることをご紹介いただきました。
オールラウンドデザイナーになる方法
1. アイディア
2. エグゼキューション
3. クラフト
「Webサイトを依頼されても、いきなりWebサイトを作らない」「顧客に本当に必要としているものを見抜く」ことの大切さを挙げられていました。Designship全編を通して色々な方の口から語られたことだと思います。
技術的向上のために「ライバルを作ること」をお勧めされていました。(在宅フリーランスとしてはこれが一番難しい…)
オールラウンドにデザインできることの強み
デザインのプロフェッショナルからの発注ではなく、ビジネスサイドの方からの需要が増えているとのこと。
佐々木さんの具体的な制作実績からビジネスのためにデザイナーができること、引き出しをたくさん持っておく大切さが語られました。
「〇〇デザインの専門家からソリューションデザインの専門家へ」というまとめがとても素敵な言葉でした。
VRにおける視点のデザイン
スピーカー: 渡邊 徹 氏 https://www.concentinc.jp/
アートディレクターをしながら「渡邊課」として動画制作をされている渡邊さんのセッション。
VRは思っていたよりずっと身近
挙げられた制作実績を見ていると門外漢でも聞いたことがあるプロジェクトもちらほらあり、食わず嫌いをせずに試すべきだと反省しました。
考えてみればVR対応ゲーム機もとっくにコンシューマー向けに販売されています。
UXそのものであるVR動画(体験させられる強み)
VRは画面を見つめるよりも現実に近い体験ができるのが強みです。しかし、「等身大至上主義への異論」と称して、現実では体験できないこと(空を飛んだり小人になってプラレールに乗ったり)をする体験もできる強みをご紹介いただきました。
「蚊になって美女の周りを飛ぶ」を見ながら、自分が作りたいものを作るのが技術習得の一番の近道なのかもしれないなぁと思いました。
デザインコンフィデンス – これからのデザイナーに求められるもの
スピーカー: 長谷川 敦士 氏 https://www.concentinc.jp/
Designshipの大トリにふさわしい「デザイナーとしての姿勢」のお話でした。今回のカンファレンスでは、色々な立場の方の口から同じことが語られたのが印象的です。
デジタルに限らないユーザーエクスペリエンス
サントリーの「クラストボス」は「デザイナーのデスクに置いても馴染むように」というアプローチで作られているそうです。(その結果、コンビニのコーヒー棚は似たボトルがいっぱい)
マーケティング分野でも関心はモノからサービスへ
デザイン分野以外の動向として、マーケティング分野での「サービスドミナントロジック」が紹介されました。
製品を提供してお金をもらうことから、サービスを提供してお金をもらうことへビジネスの主戦場が移りつつあるとのこと。
体験をサービスとして提供するには
Uberを例に「今までなかった体験(楽にタクシーを呼べる体験)」を提供することをご紹介いただきました。(日本のそこそこの都市部で生活してるとタクシーを捕まえるのには困らないので、サンフランシスコでは大変だというのは意外でした)
評価経済の要素を盛り込んで、素人の運転手さんたちのサービスが勝手に向上するような設計はすごいと思いました。
Uberの評価モデルがサービス向上に繋がるのは偶然の産物かもしれませんが、現在はそれを意識して改善されているのは明らかです。「デザインが社会に与える影響と、それがもたらす変化まで考えるべき」という「社会に組み込まれたデザイン」という概念を紹介されました。
デザイナーとして自覚すべき「Design Confidence(確信)」
「自分で作る体験がある人にしか、デザインアプローチで問題を解決できることに気づけない」と長谷川さん。
クライアントが抱える問題、必要なものはどれか考えること、プロトタイプを作りながら検討・アイデア探しをすることはデザイナーにとって日常茶飯事です。
ただ見映え作りに取り組むだけに留めないで、「あるべきものを実現する」ためにデザイナー的な考え方を役立てられるなら、デザイナーという仕事の未来は明るいのかな、と思いました。
まとめ
全編を通して「デザインとビジネスを考える」「ジャンルを超える」ことを色々な方の口から聴いているんだと思う #Designship2018
— いまいりさこ@あさぎデザイン (@i_mairy) 2018年12月2日
普段Web関連の情報収集をすることは多いんですが、プロダクトデザインや映像、空間設計などの他分野のお話が聞きたくてDesignshipに申し込みました。(チケットが即完売だった印象はありましたが、10時間で売り切れたと知ってびっくり)
個人的なまとめとしては、↑のTwitterの通りです。佐々木智也さんのお話(「フルスタックより強い、オールラウンドデザイナーのつくりかた」)でもありましたが、他の分野に興味を持つこと、ジャンルを積極的に越えることは「超一流」以外のデザイナーの立派な生存戦略だと思います。ついつい「器用貧乏」だとか「浅く広く」だとか、色々なことをつまみ食いするスタイルを卑下してしまいがちなので、今後も色々なことに興味を持ちつつ、ちゃんとそれぞれの分野で仕事としてのクオリティをキープしていきたいです。
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